相続対策の1つとして家族信託を利用しようとする場合、受託者にできる親族の範囲はどこまでとなるのでしょうか。
ここでは、家族信託の受託者になれる親族や第三者でも受託者になれるのか、どのような人が受託者となるべきか、受託者として行うべき業務の範囲などについてわかりやすく解説しています。
家族信託における3つの当事者
家族信託では「委託者」「受託者」「受益者」という3つの当事者によって信託の契約を設定します。それぞれの役割は以下の通りです。
「委託者」は財産を所有し、委託する側
家族信託の「委託者」とは、不動産や現預金などの財産を所有し、家族へと委託「する」側を言います。遺言であれば遺言作成者、生前贈与なら贈与する側が、家族信託では委託者となります。
「受託者」は委託者から財産の管理権限を委託される側
「受託者」は委託者から財産の権利や管理義務を委託される側を言います。家族信託では、委託者の親族など、近しい家族が受託者となるのが一般的です。
「受益者」は財産の運用によって生じる利益を受け取る側
「受益者」とは、委託者の所有する財産から得られる利益を受け取る権利を持つ人です。たとえば委託者が収益マンションなどを所有している場合、そこから得られる家賃収入を受け取ることのできる人を「受益者」と呼びます。
家族信託で受託者になれる親族の範囲
家族信託の受託者を設定する際、委託者に子どもがいなかったり、子どもも高齢で将来的に財産の管理が難しい、または信頼できる親族が近くにいなかったりする場合、どこまでの範囲の親族を受託者とできるのかについて解説します。
受託者に親族の範囲制限はない
家族信託で受託者とできる親族には、特に「何親等」といった範囲の設定はなく、誰でも受託者とすることが可能です。
自分の子どもはもちろん、孫や甥・姪、いとこだけでなく、内縁関係にある人や第三者を受託者とすることもできます。
預貯金などの財産を預けるにあたり、受託者を選ぶには信頼できる人物である必要があります。自宅や不動産などを所有している場合はその管理や費用の支払いといった管理義務も発生してきます。
大切な財産の管理を委託できる信頼に足る人物として、通常は家族を受託者とするものですが、家族の中に適当な人物がいない場合は、血縁関係のない人や第三者へと委託することもできるのです。
受託者になれない人もいる
家族信託で受託者になる条件として家族の範囲は制限されていませんが、以下に該当する人は「信託法」により、受託者となることができない旨が定められています。
・未成年者:2020年3月現在、民法では20歳未満を未成年とさだめていますが、20歳未満でも結婚している場合は成年とみなされます。
※今後の民法改正により、未成年の定義は20歳から18歳未満へと改正される予定です。
・成年被後見人:精神的な障害などにより、物事を正しく理解する能力がないとみなされる人を指します。
・被保佐人:成年被後見人ほどではないものの、物事の理解が著しく困難であるとみなされる人を指します。
つまり、家族であるかどうかよりも、財産の管理をしっかりと行える人が受託者となるべきであるということになります。
受託者を法人とすることも可能
家族信託では、家族に限らず法人を受託者とすることも可能です。法人を受託者とした場合、個人を受託者とした場合に想定される受託者の死亡や認知症といったリスクを回避することができます。
ただし、受託者を法人とする際、その会社が「営業」として信託業務を行っているとみなされないように注意する必要があります。
受託者を家族以外に設定する場合や法人を受託者としたい場合には、一度専門家へ相談して決めるのがよいでしょう。
受託者となった場合に行うべき業務の範囲とは
家族信託の受託者を家族や法人、第三者に設定した場合、委託者とどのような関係にあったとしても、受託者として行うべき業務が発生することを理解しておく必要があります。
受託者には法律で定められた義務がある
家族信託で受託者となった場合、「善良な管理者」として財産の管理を行うべきであることが信託法で定められており、これを「善管注意義務」と呼びます。
たとえば認知症や重い病気で委託者が自宅を離れることになった場合、自宅の管理義務を負う受託者はこれを放置せず、適切に管理しなければなりません。
定期的に自宅を訪れて換気や掃除を行ったり、庭の手入れや傷んだ箇所のリフォームをしたりする必要があるのです。
どの程度こまめに管理を行うべきかについては不明確な部分もありますが、空き家が倒壊の恐れがあるほど老朽化、ゴミ屋敷となっているのを放置していれば、善管注意義務違反とみなされると考えられます。
税金や費用の支払いも行う
自宅や不動産の管理メンテナンス以外に、固定資産税などの各種税金や水道光熱費といった費用の支払いも受託者が行います。委託者から現預金も託されている場合にはその中から支払いますが、万一足りない場合には、受託者が支払うことになってしまう可能性もあります。
不動産の維持管理が難しい場合には、受託者が不動産を売却することもできますが、その際に生じる仲介業者との交渉なども受託者が委託者の代わりに行うこととなります。
領収書の保管・記録義務など
上記のような財産管理や費用の支払いについて、受託者は帳簿などに記録する義務もあります。領収書を補完し、清掃やメンテナンスについても日誌のように書き留める業務が必要です。
受託者を設定する際には、こうした管理義務を理解して遂行してくれる人を選ばなければなりません。受託者に対して報酬を設定することも可能ですが、多額の報酬設定は認められないことも多いため、通常は信頼できる家族へ委託することとなるのです。
受託者の選定に迷ったときの専門家の選び方
家族信託で受託者を任せることのできる親族がいない場合や、話し合いがうまくいかない場合、また受託者を法人にしたい場合などでは、専門家へ依頼して家族信託を進めることで、手続きをスムーズに行うことができます。しかし、専門家ならどこに依頼してもよいわけではなく、以下のような点に注意が必要です。
家族信託や相続に関する実績を持つ専門家は少ない
家族信託について専門家へ相談する親族間でトラブルが起こった場合には弁護士、書類作成などは司法書士へ依頼するのが一般的ですが、節税のコツや税務上のアドバイスなどはもらえない場合があり、特に家族信託は比較的新しい制度であるため、取り扱いの実績を持っている税務上の専門家も少ないのです。
家族信託に詳しい税理士が在籍している税理士事務所へ相談を
受託者を法人に設定する場合も、新たに法人を立ち上げる場合に発生する見込みとなる法人税等、不動産の取得・売却には流通税(不動産取得税や登録免許税など)や譲渡所得税など、家族信託においてもこれらの税額を考慮した上で実施するのが望ましく、また、節税対策も重要となります。税務についてのアドバイスを受けつつ、適切な家族信託を希望するなら、相続と家族信託に実績を持ち、各士業とも連携の取れる税理士事務所へ相談するのがよいでしょう。
家族信託では、親族など範囲に制限なく受託者とすることができ、法人を受託者とすることも可能です。ただし、法人にした場合は信託業法に抵触しないよう注意する必要があり、受託者にはさまざまな管理義務も生じるため、家族だけで決めるのは困難な場合もあるでしょう。
節税対策も含めて家族信託について相談するなら、実績の多い税理士事務所の無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。
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